メッセージ

430年の歴史を持つ四国・徳島の阿波踊り。本場の「徳島市阿波おどり」には、毎年8月12日から15日までの4日間に延べ1,000グループもの阿波踊り連が繰り出し、130万人の見物客で賑わいます。徳島市中心部は、演舞場や路上など街全体が踊り場と化し、「踊る阿呆」も「見る阿呆」も興奮と熱気に包まれます。

阿波踊りは徳島から全国各地へ広がり、今では首都圏を中心に60か所を超える地域で阿波踊り大会が開かれています。代表的なのが東京都杉並区の「東京高円寺阿波おどり」や埼玉県越谷市の「南越谷阿波踊り」で、見物客や参加連の数は年々増えています。高円寺は商店街の振興策として、南越谷はベッドタウンのコミュニティ形成のためにと、阿波踊りを取り入れた目的はさまざまですが、どちらも数十年にわたって続いているのは、阿波踊りが街と親和性の高い文化であるからでしょう。

全国各地の大会へ取材に出かけると、徳島と異なる踊り方や踊り子の着付け、お囃子のリズムに驚かされることがあります。しかしそれは、地域ならではのアレンジが加えられているからであって、阿波踊りが地域に根づいている証しであると言えます。見た目が少し違っていようと問題ありません。阿波踊りには細かなことを問わない大らかな包容力があり、だからこそ誰もが気軽に参加して楽しめるのです。俳人の岸風三楼が「手をあげて 足をはこべば 阿波踊」と詠んだように、阿波踊りの踊り方そのものは非常に簡単です。しかし、シンプルがゆえに奥深く、一旦足を踏み入れると抜け出せない魔力がそこにあります。自身が納得できる踊りを極めようと、半世紀を越えて踊り続ける踊り子も珍しくありません。そんなひたむきでストイックな踊り子の姿が、私たち日本人の心の琴線に触れるのではないでしょうか。

私の阿波踊り取材歴は、今年で21年になります。躍動感あふれる踊りそのものももちろん魅力的ですが、それ以上に踊り子という人物に興味を持っています。「人はなぜ踊るのか」「なぜ阿波踊りに魅せられるのか」。そうした人物観察の視点が、私の取材活動の原点であり核となっています。踊り子が100人いれば100通りの踊り人生があります。喜怒哀楽をもって阿波踊りと対峙する踊り子たちの姿は愛おしく、感動を覚えるばかりです。阿波踊りは徳島発祥の伝統芸能ですが、これだけ多くの県外人に受け入れられているところを見ると、そこには普遍的な要素があると言えます。ひときわ目を引く華麗で艶やかな舞踊、脈動にも似た2拍子の心地よいリズム、連と呼ばれるチームが一体となって放つグルーヴ感、芸の道に息づく長幼の序の精神。こうした要素が幾重にも重なり、阿波踊りは人々を虜にしているのです。

阿波踊りの素晴らしさを全国へ、世界へ伝えていきたい──。その想いと願いを加速させる機関として、このたび猿楽社を設立しました。猿楽社が阿波踊りを愛する方々への一助となるよう、さらなる努力を続けてまいります。そして、阿波踊りをまだ見ぬ方、次の夏にはぜひ阿波踊り見物に出かけてみてください。できれば本場・徳島へ足を運んでいただけると幸いです。興奮と熱気の渦の中に、古きよき時代の日本の姿を見ることができるでしょう。そして、日本人に生まれてよかったと思える瞬間がきっとあるはずです。

阿波踊りの素晴らしさを全国へ世界へ
南和秀の顔写真
株式会社猿楽社 代表取締役 南 和秀
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